— A MAP OF GREEK MYTHOLOGY —

ギリシャ神話の
地図

神々と英雄たちが、人間として生きていた物語。

ギリシャの神々は完璧ではありません。嫉妬し、恋し、復讐し、罰される
2500年読み継がれてきた物語のなかから、6つの伝説を選びました。
絵画として描かれたシーン と、地中海の地理 も一緒にお楽しみください。

6つの物語 12のオリンポス神 10の名画
— PROLOGUE / 神々のはじまり —

三度、世界の支配者は
入れ替わった。

はじめに、カオス(虚無) があった。そこからガイア(大地)が、エロス(愛)が、タルタロス(深淵)が生まれた。ガイアは天空ウラノスを夫とし、ティタン神族12人 を産んだ。だがウラノスは醜い子を大地に押し戻し、ガイアは末子クロノスに鎌を渡して父を切り落とさせた。

クロノスもまた、自分の子に殺されるという予言を恐れて、生まれた子をすべて飲み込んだ。最後の ゼウス だけが、母レアの機転で助かる。岩を布にくるんで「これが赤子です」とクロノスに渡したのだ。

成長したゼウスは父に毒草を飲ませ、兄弟を吐き出させた。10年に及ぶ ティタノマキア(神々の戦争)の末、勝利した彼らはティタンを地下タルタロスへ封じた。こうして オリンポス12神の時代 が始まる。

三世代の継承(カオス→ガイア・ウラノス→ティタン→オリンポス12神の系譜)

オリュンポス山。

ギリシャ神話の神々は、ひとつの山の上に住んでいます。
ギリシャ北部の最高峰、オリュンポス山。標高 2917m。

頂上は雲に包まれて、人の目には決して見えない。そこに 黄金の宮殿 が立ち並ぶ。鍛冶神ヘパイストスが造ったそれぞれの神の住居。ゼウスの玉座、ヘラの結婚の間、アフロディーテの香り高い館、アポロンの楽器の部屋……。

神々は ネクタール(不老の飲み物)と アンブロシア(不死の食物)を口にする。これを口にする限り、彼らは年を取らず、死なない。青春の女神 ヘーベー が酌をして、神々の宴が永遠に続く。

下界の人間からは見えないが、神々はいつでも下界を眺めている——誰が誰に祈り、誰が誰を裏切ったかを。彼らの怒りも愛も嫉妬も、すべて山の上から地上に注がれる。

オリュンポス山 標高2917m
— SIX LEGENDS / 物語へジャンプ —
01パンドラの箱 02プシュケとクピド 03オルフェウス 04ヘラクレス12の功業 05トロイア戦争 06オデュッセウスの帰還

6つの物語を、読む。

神々と英雄の物語から、忘れがたい6つを選びました。
順番通りでなくて構いません。気になった伝説から、どうぞ。

EPISODE 01

あけてはならぬ、箱。

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パンドラの箱

「あけてはならぬ、と、神々は言った。」

ティタン神 プロメテウス は、人間に火を与えた——神々から盗んで。怒ったゼウスは彼を岩に縛り、鷲に毎日肝臓を啄ませる罰を与えた。だがそれでは足りなかった。人間にも罰を

鍛冶神ヘパイストスに命じて、土から美しい女を作らせた。アテナは織物を、アフロディーテは魅惑を、ヘルメスは狡知を授けた。「すべてを贈られた者」——パンドラ

彼女は地上に降り、プロメテウスの弟エピメテウスの妻となった。手土産はゼウスから持たされた 一つの箱。「決して開けるな」と告げられた箱を、好奇心に負けて彼女は開けてしまう。なお、一般には「箱」と呼ばれるが、古い伝承では甕に近い容器だったともされる。

中から飛び出したのは——病気、嫉妬、憎悪、貧困、苦痛、老い、争い。すべての災いだった。慌てて蓋を閉じたとき、最後にひとつだけ残っていた。希望(エルピス)

なぜ希望は災いと一緒に閉じ込められていたのか。なぜ箱の中に残ったのか——「もう開かない」のか、「いつでも取り出せる」のか。2500年、人類はこの問いに答えを出していない

PANDORA PROMETHEUS ZEUS HOPE
EPISODE 02

愛は、見てはならぬものだった。

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クピドとプシュケ

「決して、私の姿を見るな。」

王の三女 プシュケ(魂)は、あまりに美しかった。嫉妬したアフロディーテは、息子 エロス(ローマ名ではクピド/アモル) に「彼女に卑しい男を愛させよ」と命じる。だが彼自身が、彼女を見た瞬間に恋に落ちる。

彼は秘密の宮殿に彼女を住まわせ、夜だけ訪れる夫となった。条件は一つ——「私の姿を絶対に見るな」

姉たちの唆しで、ある夜プシュケは眠るクピドにランプを当てた。そこにいたのは美しい翼の若者。だが熱い蝋が肩に落ち、クピドは目覚め、姿を消した

プシュケは夫を求めて地上をさまよう。アフロディーテに四つの試練を課せられた——蟻の手伝いを得た豆の選別、黄金羊毛の収集、地獄の水汲み、そして 冥府からアフロディーテの美の壺を持ち帰ること

すべて成し遂げた彼女に、ゼウスは 不死 を与えた。魂(プシュケ)と愛(クピド)は、ようやく結ばれた。「魂は試練を経て、愛と結ばれる」——古代から現代まで、もっとも美しい寓話のひとつ。

PSYCHE EROS / CUPID APHRODITE SOUL
EPISODE 03

振り向くな、と、ハデスは言った。

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オルフェウスとエウリュディケ

「あと一歩。光のもとへ、あと一歩——だった。」

竪琴の名手 オルフェウス。彼が弾けば、岩も涙し、獣も飼いならされ、樹々も踊った。だが新婚の妻 エウリュディケ が、野原で蛇に咬まれて死んだ。

悲しみの末、彼は決意する——「冥府に、妻を取り戻しに行こう」。竪琴の音色は、渡し守カロンを酔わせ、三つ首の番犬ケルベロスを子犬のように眠らせた。冥府の住人すべてが立ち尽くした。亡者たちは罰を忘れた。

玉座のハデスとペルセポネの前で、彼は弾き、歌った。死の女神ペルセポネさえ、頬に涙を流した——これが初めてのことだった。

ハデスは告げる。「妻を連れて帰っていい。ただし——地上に出るまで、一度も振り向いてはならない」。

長い帰路。彼の後ろを、エウリュディケの霊が無言で歩く。本当に彼女がついてきているか、生きた肉体に戻れたか。不安は膨らみ、岩肌を這うように上っていく。

そして——もう光が見えてくるところで、ついに彼は振り向いた。「さらば」と、エウリュディケはひとことだけ言った。闇に吸い込まれていった。永遠に。

ロトの妻、イザナギとイザナミの物語にも通じる、「振り向いてはならない」という禁忌。オルフェウスの物語は、その代表的なかたちのひとつである。

ORPHEUS EURYDICE HADES UNDERWORLD
EPISODE 04

英雄は、贖うために生きる。

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ヘラクレス

「神に呪われた者は、自らを清めねばならぬ。」

ヘラクレス はゼウスと人間の女アルクメネの子。半神半人の怪力を持って生まれた。だがゼウスの不倫の子であった彼は、女神ヘラの執拗な憎悪を一身に受ける。

ヘラはついに、彼の心を狂わせた。ヘラクレスは正気を失い、自分の妻メガラと三人の息子を、自らの手で殺してしまう。我に返った彼は絶望した——死ぬことすらできない、神々の子だから。

デルポイの神託は告げた。「親族エウリュステウス王に仕え、12の不可能な仕事 をやり遂げよ。それで罪は清められる」。

— THE TWELVE LABOURS —
01
ネメアの獅子
不死身の獅子を絞め殺し、皮を剥いで鎧とする
02
レルナのヒドラ
切っても再生する九つの首を、焼いて潰す
03
ケリュネイアの牝鹿
黄金の角を持つ俊足の鹿を、傷つけずに生け捕る
04
エリュマントスの猪
山を荒らす巨大な猪を生きたまま捕らえる
05
アウゲイアスの牛舎
30年溜まった糞を、川の流れを変えて一日で掃除
06
ステュムパロスの鳥
青銅の翼を持つ人喰い鳥を、矢で射落とす
07
クレタの牡牛
島を荒らす狂暴な牛を生け捕り、本土へ運ぶ
08
ディオメデスの牝馬
人を喰らう四頭の馬を、主人を喰わせて捕獲
09
アマゾン女王の帯
女戦士族の女王ヒッポリュテから帯を奪う
10
ゲリュオンの牛
世界の西の果てに住む、三つ体の巨人を倒す
11
ヘスペリデスの黄金のリンゴ
不死のリンゴを、世界の果てから持ち帰る
12
冥府の犬ケルベロス
三つ首の番犬を、生きたまま地上へ連れ帰る

すべてを成し遂げた彼は、罪を清められた。だが彼の人生はそこで終わらず、毒の衣に焼かれた末に 自ら火に飛び込んで肉体を焼き、神となった

ギリシャ神話の英雄は、勝利者ではない。失敗の重さを背負って働き続ける者 こそが、英雄である。

HERACLES HERA 12 LABOURS REDEMPTION
EPISODE 05

黄金のリンゴが、十年の戦争を始めた。

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トロイア戦争 ― 木馬と陥落

「最も美しい者へ——と、リンゴには書かれていた。」

神々の宴に、争いの女神エリスが 黄金のリンゴ を投げ込んだ。「最も美しい者へ」 と刻まれていた。ヘラ、アテナ、アフロディーテが争い、判定はトロイア王子 パリス に委ねられた。

三女神は賄賂を提示する。ヘラは「世界の覇権」を、アテナは「あらゆる戦いの勝利」を、アフロディーテは「世界一の美女を妻にやる」と。パリスは——愛を選んだ。

世界一の美女とは、スパルタ王妃 ヘレネ。パリスは彼女を連れ去り、ギリシャ全土が「ヘレネ奪還」のために立ち上がった。1186隻の船 がトロイアに向けて出航する。

10年に及ぶ包囲戦。アキレウスは親友 パトロクロス を失い、激怒してトロイア王子 ヘクトール を倒した。だが英雄も、パリスの矢で踵を射られて死ぬ

戦況を変えたのは、知将 オデュッセウスの「木馬の計」 だった。巨大な木馬の中に兵士を潜ませ、城門の外に置き去りにする。トロイア人は戦利品として木馬を引き入れた——その夜、中から兵士が躍り出て、城は灰となった。

10年の戦争が、一夜で終わった。一個のリンゴから、トロイア戦争の物語が始まった。ホメロスの『イーリアス』は、その戦争の終盤に燃え上がる アキレウスの怒り を描いている。

TROY PARIS HELEN ACHILLES HOMER
EPISODE 06

家までの道は、十年かかった。

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オデュッセウスの帰還

「ペネロペは、毎日機を織り、夜に解き続けていた。」

トロイア戦争を勝利に導いた知将 オデュッセウス。彼は故郷イタケへの帰路で、ポセイドンの怒りを買い、10年の漂流 を強いられる。

一つ目巨人 キュクロプス を欺き、魔女 キルケ に豚に変えられた仲間を救った。セイレーンの歌 を、柱に縛りつけられて聴いた——人間で初めて、誰にも殺されずに彼女たちの声を聞いた男。冥府に降りて死者と語り、女神カリュプソに7年留められた。

カリュプソは彼に 不死 を提供した。だがオデュッセウスは断った——「朽ちゆく妻のもとへ帰りたい」と。

故郷イタケでは、妻 ペネロペ が108人の求婚者に囲まれていた。「義父の葬衣を織り終えたら再婚します」と告げ、彼女は 毎日織っては、夜に解いていた。20年間、夫を待ち続けて。

変装して帰ったオデュッセウスを、最初に認めたのは 老犬アルゴス だった。20年経って痩せ衰えた犬は、主人に気づき、息絶えた。

翌日の宴で、ペネロペは試練を出す——「オデュッセウスの弓を引いた者に嫁ぐ」。誰も引けなかった弓を、変装した彼が引いた。そして射殺した、求婚者全員を。

20年ぶりに、家族が再会した。ホメロス『オデュッセイア』。それは戦争の英雄譚ではない。「家に帰る」という、人類最古の願いの物語である。

ODYSSEUS PENELOPE POSEIDON HOMECOMING HOMER

神話は、絵画になった。

ルネサンス以降の西洋美術では、ギリシャ神話の物語が何度も描かれてきました。
美術館でこれらを見つけたら、あなたはもう物語を知っている

ART 01
The Birth of Venus
ヴィーナスの誕生
Sandro Botticelli ・ c. 1485
APHRODITE / VENUS
UFFIZI GALLERY, FLORENCE
ART 02
Primavera
プリマヴェーラ(春)
Sandro Botticelli ・ c. 1482
SPRING / THREE GRACES
UFFIZI GALLERY, FLORENCE
ART 03
Apollo and Daphne
アポロンとダフネ
G. L. Bernini ・ 1622–25
APOLLO / DAPHNE
GALLERIA BORGHESE, ROMA
ART 04
Bacchus and Ariadne
バッコスとアリアドネ
Tiziano Vecellio ・ 1520–23
DIONYSUS / ARIADNE
NATIONAL GALLERY, LONDON
ART 05
Leda and the Swan
レダと白鳥
Leonardo da Vinci ・ c. 1505
ZEUS / LEDA
GALLERIA BORGHESE (COPY)
ART 06
The Judgement of Paris
パリスの審判
P. P. Rubens ・ 1638–39
PARIS / TROY
MUSEO DEL PRADO, MADRID
ART 07
Narcissus
ナルキッソス
Caravaggio ・ 1597–99
NARCISSUS
PALAZZO BARBERINI, ROMA
ART 08
Psyche Revived by Cupid's Kiss
アモルの口づけで蘇るプシュケ
Antonio Canova ・ 1787–93
PSYCHE / CUPID
MUSÉE DU LOUVRE, PARIS
ART 09
Perseus and Andromeda
ペルセウスとアンドロメダ
Tiziano Vecellio ・ 1554–56
PERSEUS / ANDROMEDA
WALLACE COLLECTION, LONDON
ART 10
Ulysses and the Sirens
ユリシーズとセイレーン
J. W. Waterhouse ・ 1891
ODYSSEUS / SIRENS
NATIONAL GALLERY OF VICTORIA

物語の舞台を、歩く。

ギリシャ神話の物語は、地中海全域 を舞台にしています。
オデュッセウスは漂流し、ヘラクレスは世界の果てへ。各物語の舞台を地図で見渡してみましょう。

※ この地図は、神話の舞台を大まかに掴むための案内図です。物語によって場所には諸説があります(ヘスペリデスは「世界の西の果て」とされ、位置には諸説あり)。

物語の舞台 — 地中海全域のギリシャ神話マップ
01 オリュンポス山神々の住処
02 デルポイアポロンの神託
03 アテネアテナの都
04 ミケーネアガメムノンの王国
05 スパルタヘレネの故郷
06 イタケオデュッセウスの島
07 トロイ10年の戦場
08 クレタ島ミノタウロスの迷宮
09 シチリアキュクロプスの島
10 ヘスペリデス世界の果て・黄金のリンゴ

神々・英雄・運命の人々。

物語に出てきた人物を、4つのグループに整理しました。
気になった人物は、クリックで詳しいプロフィールへ。

ホメロスがいる限り、
神々は死なない。

— As long as Homer lives, the gods will never die. —
kagari gallery — Notes on Greek Mythology